好きなのに~渦巻く嫉妬の嵐4
弘徽殿の女御様があたし達の前に現れた。
さすがは鷹男の母君さま。
堂々とされて若々しく豪快な方だった。
沢山の女性達の視線を一手に引きうけられているのに気後れもなく堂々とされていた。
周囲をぐるりと眺められた時、あたしと一瞬視線が合った様な気がした。
そして微笑みをかけられたあたしはドキッとしたわ。
まさか微笑を受けるなんて思いもよらなかったから。
でもそれは周りには気が付かれない様な一瞬の笑みだった。
だから一体なんだったのかあたしには理解が出来なかったの。
弘徽殿の女御様の真意があたしには掴めなかった。
それでも愛する鷹男の母上さまだから嫌われたくはない。
そうあたしは思っていたの。
「皆揃ってますね。梨壺の女御、桐壺の女御、そして麗景殿の女御、私の主催する宴に参加してくれて
ありがとう。こんな機会でもないとなかなか会えないですからね。
ここにいる女御達は皆東宮に仕えるもの達ばかり。
皆仲良くしていただきたいのです。同じ人に仕えるのですから楽しく宴を過ごしてくださいね。」
「弘徽殿の女御様今回はこんな素敵な宴に呼んで下さり誠にありがとうございます。凄く楽しみに
しておりました。また誘っていただけると凄く嬉しいですわ。」
「梨壺の女御ありがとう。あなたは東宮のためにもとても大切なお方です。これからも東宮と
仲良くしてくださいね。」
「もちろんですわ!」
「弘徽殿の女御様本日はお招きに預かり誠にありがとう存じます。
花を愛でるのは好きなので凄く嬉しいです。今後ともよろしくお願いいたします。」
「桐壺の女御もありがとう~あなたは東宮の添い節の任からの仲です。これからも東宮を
よろしくお願いしますね。」
「はい。」
やだ、次はあたしの番じゃない。
こういう堅苦しい挨拶は苦手なのよ。
え~い、女は度胸よ!
「弘徽殿の女御様本日はお誘いくださりありがとうございます!!!!!!
これからもずっとずっと東宮様におつかいして幸せにして見せます!!!」
あたしが挨拶をした途端周りがざわざわ~としはじめた。
あれ?あたし変なことって言った???
あたしは鷹男から絶対に離れないし鷹男の傍にずっといるわ。
そのことを伝えたかっただけなのに変なことっていったかしら。
近くにいる小萩は蒼白な表情で口をパクパクさせている。
他の女御様の女房達は殺気立っている。
あたしは別に悪いことをいってないのだから堂々としていたわ。
そうしたら目の前にいた弘機殿の女御様が大笑いされたの。
「まあ~おほほほほほ~~~~~」
コホン
弘徽殿の女御様のお付の女房が咳をすると弘徽殿の女御様が笑い声を止めたの。
「ふふっごめんなさいね~それにしても麗景殿の女御。その言い草は他の女御に喧嘩を吹っかけている
用にも捉えるけどそうなのかしら」
は?なんでそうなるの?
あたしは鷹男の傍にいて二人で幸せになるのよ。
なのにそれのどこが一体悪いというの?
「麗景殿の女御。あなたが言ったことは自分一人だけが東宮の傍に仕えて幸せになろうということに
繋がりかねませんよ!」
ええ!?
「あたしはそんなことを言ったつもりはないのです!ただ東宮様にずっとお仕えすることを言おうと
思っただけで」
「あなたの言いたいことは分かります。しかしあなたの言ったことは東宮を独り占めする発言に
繋がることになるのですよ。この後宮は今上帝、そして東宮を数多くの女性でお仕えする場なのです。
それをあなたの発言で周りの者達に不快感を抱かせる発言はお止めなさい。」
「申し訳ありませんでした。緊張し過ぎてあんな発言をしてしまいました。
梨壺の女御様、桐壺の女御様、失礼な発言でした。
さっきの発言は撤回いたします!本当に申し訳ありませんでした。」
あたしはさすがに弘徽殿の女御様の言っている意味を察知し頭を下げた。
今上帝もそして東宮にも一人の女が仕えるのはありえないということ。
それはその女御が権力を持ってしまうことに繋がり兼ねないから。
あたし達女御は後宮に争いごとを起してはならないのだから。
ここで争ってしまっては京が飛んでもないことになってしまうのだから。
権力に近い位置にいる事をあたし達がしっかり理解しなくてはいらぬ争い事を巻き起こしてしまうもの。
あたしが頭を下げたからか周りの殺気が少しおさまった様な気がした。
「麗景殿の女御も反省したでしょう~さっきのことは水に流し宴を楽しみましょう~」
そう弘徽殿の女御様が仰られたと同時に琴の音が鳴り響き宴が始まったの。
最初はいい雰囲気ではなかったけど美しい音色と美しい庭を眺めることで
皆宴に集中し楽しむことが出来たの。
そうして宴が終わり女御様方は自分の局に帰っていく。
その時あたしだけ弘徽殿の女御様に声をかけられたのよ。
「お待ちなさい!麗景殿の女御。あなただけまだお話があります。
残ってもらう理由はお分かりのはず。梨壺の女御、桐壺の女御。今日は楽しかったです。
またお誘いしますのでその時はよろしくお願いしますね。」
「もちろんですわ、本日は誠にありがとうございます」
「ありがとうございます」
二人の女御様の女房達はやや不敵な笑顔で立去っていったの。
あたしはあたしで少し緊張してしまっていた。
だってあたしだけ残されてしまったし残された理由って言ったら遅刻したでしょう~
そして最初の挨拶が不味かったでしょう~絶対にお叱りを喰らうわね。
ドキドキしながらあたしは弘徽殿の女御様の行動を待っていたのよ。