好きなのに~渦巻く嫉妬の嵐3
あたしは女御になった当初はとても幸せだったと思う。
鷹男は毎日のように麗景殿に渡ってくれたし御文も欠かさず私に贈ってくれた。
あたしに凄く気を使ってくれていたんだと思う。
最初だったからなのか、他の女御様からの嫌がらせもなく
あたしは後宮生活を満喫することが出来た。
そして絶対に体験できないと思っていたお忍びまで誘ってくれた。
あの頃が凄く幸せだったんだと今なら思う。
どうしてあの頃のあたしはまだ無知だったんだろう~
後宮の恐ろしさというものを物語などで知っているだけで
実際の体験とは大きく違うことに
あたしは気がついていなかった。
後宮でのいろいろな思惑。
さまざまな女の妄執、そして鷹男からの試練。
あたしはそれが自分に少しずつ少しずつ
絡み捕られていくなんて思ってもいなかったのよ・・・・
あたしが鷹男にお忍びに連れていってもらって1ヶ月が経った頃だった。
あたしは弘徽殿の女御様に萩の花を愛でる宴に招待されたの。
弘徽殿の女御様は鷹男の御生母さま。
弘徽殿の女御様からは内輪の宴だからそんなに気を遣わなくてもいいと
御文を頂いたのだけれどそういうわけにはいかないじゃない?
すぐに宴に参加するための準備を小萩達女房に頼んだ。
東宮様の御生母さまからの招待だということで小萩達はあたしをう~んと着飾るように
美しい新調の衣を用意してくれた。
あたしが入内して間もない頃に一度挨拶に伺い軽く挨拶をしただけで
言葉をしっかりと交わしたことはない弘徽殿の女御様。
そのお方からのお誘いですもの。
今回が初めて私的にお会いすることになる。
そう思うと胸がドキドキする。
あたしはあまり言葉使いが丁寧じゃないからボロがでないか心配だわ。
あたしはこの時弘徽殿の女御様だけしか意識をしていなかったの。
梨壺様や桐壺様などの鷹男の女御様方が呼ばれていたとしても
まだこの時はただ鷹男の女御様なのだとそう思うだけで
意識はあまりしていなかった。
いえあまり感じることが出来ないくらい鷹男に守られていたのよ。
それにも気がつかずに
この場がまさかあたしの試練の場になろうとは思いもよらなかったのよ。
あたしは時間に遅れないように早めに支度を済まし他の女御様よりも早めに行こうと考えていたの。
そして弘徽殿に入った途端ものすごい視線を感じたの。
友好な視線ではなく悪意の視線があたしを貫くかのように。
そして一気にざわつき始めたの。
あたしは真青になってしまった。
だってあたしが一番最後だったのですもの。
梨壺様も桐壺様もすでに準備をして席について見えるのですもの。
その悪意の視線は女御様側の女房達からの視線だった。
あたしが席についた途端周りが聞こえるようにヒソヒソと話しはじめる。
「新参者の女御が一番最後に席に着くなんて一体何様なのかしらねえ~」
「最近自分が東宮様の寵愛を独り占めしているから自分が偉いのだと
勘違いされていらっしゃるのじゃないかしら」
「まあ~図々しい方ですわね~」
「あら、元々入内なさる前から奇人と噂になった御方ですわ。内の女御様と隣同士だなんて
席を替えていただきたいわ。」
「内の女御様もそうですわ。同じ席にいて欲しくありませんわ。」
「遅刻なさるなんて~新参者が一番に来て挨拶するのが筋ですのに
誠に礼儀がなっていないお方。」
散々あたしは二人の女御様の女房達に悪口をいわれる。
なんでただの女房達に散々悪口をいわれないといけないのよ。
確かにあたしは一番遅かったけどここまで言われる筋合いなんてないわよ。
でもどうして?
あたしは言われた時間よりも半刻早めに麗景殿を出て来たのに・・・・
時間に遅れてしまうだなんて一体どうしてなの?
あたしがそう思ったとき小萩があたしの耳元で小さく教えてくれたの。
「やられましたわ。弘徽殿の女御様は少し早めに宴に出席するように
女御様皆様方に通達をしたようで
内への通達は多分誰かが止めていたのだと思います。」
そう言った小萩は申し訳ない表情だった。
小萩が悪い訳じゃないのに、主が非難を浴びているため、
何もできないことに耐えることしか出来ないのだろ
う。
初めて面と向かってあたしに攻撃をして来た女御様方に
あたしはただ黙っているだけの女じゃない。
反撃をしようと思った時
「弘徽殿の女御様お見えでございます!」
声を高らかに女房が先導して来たため何も言えなくなってしまったの。
そうしてあたしは弘徽殿の女御様に対面することが叶ったのよ・・・・・・