妄想の館

なんて素敵にジャパネスク二次小説(鷹男×瑠璃姫)

藤壺女御物語16 間章

吉野の里にて

 

 

 

 

「吉野の宮様、朝餉をお持ちしました。」

「ありがとう」

私のほかに部屋から誰もいなくなった。

私は吉野の里に拠点を移し数少ない下人を連れて

吉野の里に移るようになった。

私の出現は京では衝撃的な事実だったようで一時期私は

時の人となっていた。

律師だった僧が院の落胤だとは殆どのものに知られていなかったため

貴族たちは我先にと私の後見に就こうとする者たちであふれかえっていた。

私の後見をすることで次代の東宮につけようとするものや

今上帝を廃して私を帝につけようとするもの。

そんな思惑さえ漂う中、院の一言と私の言葉で誰もが私から離れていった。

親王の位を返して臣籍に降りると宣言したのだ。

私は昔とは違い権力欲は全くない。

そう・・・昔は瑠璃姫と結ばれるためにも官位がどうしても必要だった。

だが、瑠璃姫が私のもとに来られぬのなら官位など望まぬ。

私はこのまま忘れられてもいい。

そう思っていたけれど、さすがに無冠では兄宮に会うことさえ叶わない。

身分はそのまま、今は吉野の里の住職となった。

そして吉野で暮らす私を皆吉野の宮というようになったのだ。

いまさら火種になるつもりもない、もう誰かに利用される童でもない。

今は静かに兄宮と瑠璃姫が幸せになるよう、そしてこの国が

ずっと平和でいられるよう念仏を唱えるのみ。

 

 

 

 

瑠璃姫の気持ちが最初から私になかったのは気が付いていた。

気持ちがないとは断言できないが、今の私を見る気がないことは目に見えていた。

幼き頃の思い出に浸り、私の童の面影を探すようなしぐさを

何度もされていた。

実は何度か瑠璃姫に会っていたのだ。

少しでも私を知ってもらうために。

だが、姫は無意識だったのだろう。

確かに吉野での暮らしは私の人生の中で最上のひと時だった。

短い時間ではあったが姫との沢山の思い出は何物にも代えない

素晴らしい日々だったのだ。

だが、今は私は成長して若者になった。

院に認められ吉野の里で暮らすことが可能になった。

けれど瑠璃姫は幼き頃の私から離れてくださらない。

代わりに出る名前は鷹男殿という名前である。

兄宮が本名を隠して使っている名前が鷹男殿だった。

瑠璃姫には気が付かれていないが私は偶然その名前を聞いたことがある。

兄宮は帝だということを隠して瑠璃姫とお会いになっていたのだ。

そう・・・・瑠璃姫は鷹男殿のことを男として意識されているのだ。

鷹男殿を想う彼女の表情は異性を見る目だった。

顔は赤らめ、怒りながらも表情は決して怒っていない、

熱のこもった眼差しをされていた。

鷹男殿とどう出会ったのかはわからない。

私はあえて聞いてもいないし、帝であることを隠しているのなら

あえて言うほどお人よしでもない。

ただでさえ、瑠璃姫は兄宮の女御である。

二人の間を妨げるのは私なのだから。

瑠璃姫であれば鷹男殿が帝であると知ったならどうだろうか?

かえって私のもとに来てくれるのではないか?

そんな闇の心がささやく。

帝と藤壺の女御の間では不仲説が流れている。

殆ど藤壺には足を運ばれていないご様子。

代わりに鷹男殿としての兄宮が足しげく藤壺に通っているのであろう。

嫉妬で心も騒めいた。

兄宮は瑠璃姫を愛していらっしゃる。

瑠璃姫はどちらの手を取るのだろう・・・

矛盾した気持ちが私の心を占めている。

決して瑠璃姫は私を選ばないであること。

もしかしたら兄宮を選ばずに私を選んでくれるのではないかと。

人の心は分からないものであるから・・・

 

 

 

 

ついに瑠璃姫は兄宮が鷹男殿だということをお知りになった。

 

 

 

 

瑠璃姫は混乱されているようで返事を急かしたのにいい返事は頂けなかった。

鷹男殿と帝の間で揺れ動き少しでも私のことを思い出していただけるのだろうか?

私はそのことが怖かった。

 

 

 

 

私は鷹男殿には勝てないのだ。

だが勝利の行方は分からない。

瑠璃姫の絶望感に満ちた表情。

鷹男殿が今上帝ということを知った彼女の表情は皮肉にも

私にとっては喜ばしいことだったのだ。

もしかしたら瑠璃姫は私のもとに来てくれるのではないかと・・・

そう思えた瞬間だった。

 

 

 

 

藤壺に呼ばれた私は彼女の表情に非常に驚いていた。

いつもの愛らしい表情ではなく、少しでも元気を出そうとする

無理やりな笑顔。

正直見たくなかった。

瑠璃姫・・・

あなたは今の表情に気が付いていますか?

けれどもう少しで瑠璃姫は手に入る。

だったらあえて私は目をつむろう。

「私の愛するあの小さかった幼き姫を手に入れることができます。

懐かしの吉野の里での思い出、

二人で静かに暮らしましょう。あなたがいるだけで私は嬉しいのです。」

 

そう、あなたの心は私になくてもそれでも良いのです。

幼き頃の姫。どうかわたしを選んだことを後悔なさらないでください。

 

 

 

兄宮は瑠璃姫と一緒に来た私を見てすぐに察しられた。

帝としての立ち振る舞いに私はカッとなった!

 

「兄宮!一つお聞きしたいことがあります。瑠璃姫を簡単にお放しになるのは

それだけ瑠璃姫への気持ちが軽かったのですか?

それとも兄宮としての立場がそうさせるのですか?」

「何を馬鹿な!私は本気で瑠璃姫を愛している!

お前にわかるわけがないだろうが!帝として何度自分の心を殺してきたか。

私にだって感情はある!

だがそれは許されぬことなのだ!私は帝なのだから!

一番欲しくてもどれだけ欲しくても、心がどれだけ悲鳴を上げようとも帝であるべき。

私はそう院に教わった。だからこそ私は・・・」

 

兄宮の本心だった・・・

帝だからこそ、すべてを持っている兄宮だからこそ幸せなのだと決めつけていた。

最高権力者である兄宮だからこそ、何でも手に入れられて

誰もが犠牲になっていることさえ知らない無知な人間であると

そう決めつけていたのだ。

帝というのは個がないのではないか?

個を持つことは許されない存在なのだ。

 

ああ~私は・・・・

 

瑠璃姫は私を思ってか手を出そうとしても出せずに震えていた。

 

「瑠璃姫はいいのですか?」

「吉野の君、ごめんなさい。」

 

二人の抱き合う姿こそ二人の幸せなのだ。

元々二人の仲に入るべきじゃなかったのだ。

私は瑠璃姫にとっては過去の君。

過去の君でもそれでも私を愛してくださったのはかけがえのない事実。

私はそれだけで満足です。

二人に言葉をかけて私はその場を去ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「吉野の宮様!どうかなさりましたか?」

お付きの女房が話しかける。

「どうもしないよ。」

私は思う。

二人の幸せのために身を引いたことは後悔しないだろう。

もう私は愚かな童ではない。

自分の道は自分で決める。

私自身で決めた道。

私の小さな姫君よ。

あなたに間違った道に進んでほしくなかった。

それが自分の傍じゃなくても・・・・

遠い吉野で見守っているよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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