妄想の館

なんて素敵にジャパネスク二次小説(鷹男×瑠璃姫)

秘恋7終


写真素材 pro.foto

 

 

私の元服の儀は誰もが注目しているようだった。

太政大臣である祖父は泣きながら私を見ている。

小さな私が元服を迎える。その様を思い出しているんだろう。

自分のことなのに実感が湧かない。

けれど成人したとなれば、父上の言った言葉を守ることと

東宮様をお守りすること。

それが私にできることとなる。

そして元服したと同時に驚きのことが起こった。

まさか私に元服と同時に官位が授けられると思っていなかったからだ。

年齢はまだ11歳。若くして父上が昔なった右衛門佐になるのと兼任で

東宮様付きの侍従まで授かったのだ。

これは最年少で異例中の異例。

衛門佐の仕事はこの京の治安を守る人でもある。

だがまだ元服したばかりの私がなったとしても他の方に

迷惑をかけるに違いない。

下手をしたら人質にされるかもしれない。

だがこの官位は主上あっての頼みだというから、私も無碍にはできない。

それよりも東宮様の侍従になれたことを誇りに思う。

これで東宮様の傍にいつまでもいられるのだから。

そんな事を思っていた矢先、ついに父上が倒れられてしまったのだ。

御所に連絡が届き三条邸に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

活気にあふれた三条邸は僧の念仏の声が聞こえるだけで

他の声が聞こえないほど静まり返っていた。

母上はあまり神仏に頼らない人だったが、弱ってしまっているのだろう。

私の顔を見てもずっと父上の傍から離れなかった。

父上は顔色も悪く苦痛表情をしている、額には冷や汗いっぱいで

いつ逝ってもおかしくなかった。

その父上が私を見て話をしたいと急に起き上がろうとしたのだ。

周囲は慌てて止めに入るが私と二人きりで話をしたいと言い、

父上と二人きりになる。

 

 

「父上お加減はどうですか?もう無理はされないでください。」

「・・・彬、おまえに言っておきたい・・・

瑠璃さんと子供たちを頼む・・・・・」

「言われなくても当たり前のことです。」

「そうか・・・だったら瑠璃さんに今度こそ素直になって

幸せになってほしい・・・そう伝えてくれないか?」

「何をおっしゃるのですか?父上と一緒に居て母上は幸せそうでしたよ。」

「うん、そうだけれど瑠璃さんにはまだ心の奥底に想っている人がいるから

だから・・・」

「父上、何を・・・・・」

「手紙・・・・瑠璃さんは未だにその手紙を大切にしているからね。

それに僕は瑠璃さんとそのお方を先に置いて逝ってしまうから申し訳なくてね」

「父上はそれでよろしいんですか?」

「もう十分幸せだったさ、ただ皆を置いていくことが無念なだけ。

それに瑠璃さんには尼になってほしくないからね。

僕のためにと自分の想いを押し込めてほしくない。それはあのお方も同じこと。

だからね、無理にとは言わないけれどお二人が思いあっているならさ、

彬に頼むね。」

「父上もお人が悪い、私の母上を他の殿方に預けるだなんて」

「ふふふ、そうだね。でも僕はずっと二人を見てきたからね。

二人には笑っていて欲しいんだ。僕がいなくなって

悲しむだろうけど、その悲しみにずっととらえられて欲しくない。

僕の好きだった人たちだからね。頼むよ。」

そう父上は私に伝えるとホッとしたのかそのまま意識を失った。

それから次の日、父上は母上と一言話をしてからこの世を去っていったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あたしは今吉野の別荘にいたの。

彬に言われて前を向こうとそう思った。

そして鷹男との文も再開したけれど、何故か鷹男の胸に飛び込む勇気が

出なかったの。

噂では鷹男の調子が悪く、床に臥せている日々が続いているっていうわ。

もしかしたらあたしを置いて逝なくなるかもしれない。

高彬のようにあたしを置いて・・・

そう思うと簡単に鷹男の傍に行く勇気が出ないのよ。

それでも毎日のように文が届くし返信もするわ。

吉野と京では場所が離れているから毎日届くわけではないけれど

日付から察すれば毎日送ってくれているのだろう。

あたしは鷹男からの文を読む。

 

万葉集より)

君が行き 日長くなりぬ 山たづね 迎えか行かむ 待ちにか待たむ 

(現代訳)

 貴方が私のもとを去って長い日にちが経ちました。貴方のおられる山奥まで訪ねて行きましょうか、お帰りをひたすら待ちましょうか。

 

あたしは返歌を返す

万葉集より)

古ふりにし をうなにしてや かくばかり 恋に沈まぬ 手わらはのごと

(現代訳)

 年老いた私がこんなに深く貴方に恋して、まるで幼児のように恋にうつつをぬかしています。

 

吉野の様な山奥に鷹男が来られるわけがない。

そんなことが分かっていても、やっぱり文に書かれると嬉しいもの。

この吉野でお互いが文を堂々と書けるのも高彬のおかげ。

でも傍に高彬がいない・・・いないんだ・・・・・

 

「瑠璃様・・・お待ちの方がお見えですよ!」

「まさか、高彬!」

「母上、お久しぶりです」

「彬・・・・・」

ああ~分かっていたのに、

高彬がもうこの世から去っていったことを知っていたのに

今度は逆な事を思う。

あの時は吉野の君を想い、高彬が来たことに絶望感を抱いた。

それが今度は高彬がいないことで高彬に会うことを望むなんてね。

「母上、母上、いえ瑠璃さん」

「高彬!」

あたしは思わず彬に抱きついてしまった。

だって目を閉じると彬の声は高彬の声なんですもの。

「彬って、高彬と声が一緒ね。」

「やっぱりそうですか?主上東宮様が懐かしそうに私を

見つめられることがあります。最近ではよく父上と間違われますよ。」

「そう、ほんと目を閉じれば高彬のことが浮かんできちゃうわ。」

「そうですか・・・・でしたらこの文はどうされますか?」

「それって!」

その文は高価な紙で、できがあっているから身分が高いものが

書く文だ。

鷹男からの文に違いない。

「なんで彬がそれを持ってきたの。まさか、鷹男に持たされて!」

「違います!いい加減母上も観念してください!

二人して父上を思う気持ちは分かりますが、東宮様も嘆かれていましたよ。

恐れ多くも主上が父上に遠慮して母上を呼ぶことができないんだとか。

これでは父上が願ったお二人の笑顔が見れないではありませんか!

父上はお二人の幸せを願った!なのに離れ離れでいつまでも

中途半端では父上も浮かばれませんよ!」

「ごめんなさい、彬、心配させて。そうよね、

あたしったら心から笑ってないわよね。未だに高彬のことが

忘れられないんだから。

だからあんたにお願いがあるわ。

瑠璃さん、京に帰ってきてって、そう言って。」

「分かりました。瑠璃さん、京に帰ってきてよ!」

「高彬!!!!!!!!ありがとう!」

あたしの心は昇華したかのように晴れ晴れとしていた。

吉野にいるのは好きよ。

昔の思い出、そして高彬との思い出に浸れるのですもの。

けれどそれでは高彬の遺言を守ることとは違う。

過去にとらわれすぎるのを高彬は喜ばない。

だから今度こそあたしは鷹男の元に行くことにするわ。

 

 

 

 

 

それからしばらくして今上帝は東宮に譲位をし、院御所に移ることになる。

そこには右衛門佐から右近の少将に昇進した彬の母君が院の尚侍として

仕えることになる。

二人はそれはそれは周囲が羨ましいと思われるほど

幸せだったそうです。

ある方の遺言通り、毎日笑顔が絶えない

そんな幸せな表情を見せていたといえるでしょう。

 

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