信じたいのに6
ドンドン鷹男との距離が離れる中、私は更に混乱を覚えていたの。
それは夜のお召しの時だけは鷹男があたしを見てくれているような気がしたから。
普段ではあたしを女御としてしか扱いはないのに
夜、あたしを抱く時だけは瑠璃という名前を呼び優しく抱いてくれるの。
けれど、それはただの体だけの繋がり。
ことが終わってしまえば
鷹男はすぐにあたしから離れてしまい
あたしは鷹男の部屋から出され
夜から朝までずっと過すことはなかった。
あたしはただ、体のために鷹男と付き合っているのかな?
鷹男は後継者を沢山作るが為に
あたしを抱くのかな~
そんなことばかりしか考えられなくなっていたの。
苦しい・・・・苦しい・・・苦しい・・・・
もう鷹男の気持ちが見えなくなってしまったから
苦しくて仕方がないのよ。
ふ~~~~~~
あたしは大きなため息をついた。
外はこんなに綺麗な満月の夜なのに
あたしの心は真っ暗で疑心暗鬼になっていた。
もう藤壺の女御としての身分を確立しているあたしであったけれど
瑠璃姫としての性格はやっぱり変わらずにいた。
後宮での生活はやっぱり窮屈で自分なりの楽しさはあるけれど
時には思いっきり外で暴れたい~~~~~
そんな気持ちも心の中にあって
あたしは実は今、自分の部屋から外に出て階のところで
物思いにふけていた。
いつものあたしなら階を降りて庭に出て駆け回っていたかもしれない。
でも今は鷹男の評判を下げたくないがために女御として振舞わないといけない
だからこそ自分の局の階で留まっていた。
誰もが眠る後宮でこんな時間に起きているのは警備のものだけ。
蝋燭の灯がユラユラと揺れる中、
この場所は、この時間は警備のものも誰も通らない場所。
通ったとしても死角で気がつかれない場所だった。
自分の局の前だからそんなに離れたところでもないけれど
そこで幾度もあたしはいろいろなことを考える。
鷹男のことばかり。
もう鷹男はあたしには何も興味を覚えないんだろうか?
そんなときだった!
「誰だ!?」
「きゃっ!?」
男の怒鳴り声が聞こえてあたしは思わず小さな悲鳴を上げてしまったの。
最近では人の気配に敏感ですぐに自分の気配を消すことも覚え
外に出ても気がつかれない自信があったのに
どうして見つかっちゃったんだろう~
「えっ!?瑠璃さん!?」
「高彬!?」
その声の持ち主はあたしの元婚約者でもあった高彬だった。
「る、じゃなくて藤壺の女御様、こんなところにどうしていらっしゃるのです。
ここは危険でもし何かあったらどうなさるのですか?
早くお部屋にお戻りください。」
凄く久しぶりに出会った高彬。
なんだろう~~~~高彬の声を聞いて少し安心してしまったの。
「高彬!?別にいいじゃないの~」
「何を言うのです。あなた様はお主上の大切な女御様ですよ。
そんな方にもし何かあったらどうなさるのです。お主上が悲しまれますよ。」
「そんなことないわ!」
「瑠璃さん!?」
あたしは思わず大きな声で否定してしまったの。
だってそうでしょう。最近の鷹男の考えがあたしには全く分らないのですもの。
鷹男はもうあたしのことを女御としてしか見てくれない。
あたしを愛する気持ちはなくなってしまったのよ!
あたしは下を見てグッとこらえていた。
こんな惨めな姿を高彬に見せるべきじゃない。
あたしは高彬の求婚を振って鷹男の元にいったんだから。
高彬に縋るべきじゃないもの。
あたしは高彬の前で幸せそうな表情を見せるべきなの。
それが振ったあたしからの高彬へのけじめなんだから。
あたしは後宮に来て自分のコントロールをすることに長けるようになっていた。
だから、さっきの苦しそうな表情を押し込めて
何事もないかのように高彬に話しかけたの。
「右近の少将高彬殿。先ほどの失態申し訳ありません。
気持ちはおさまりました。ですが、自分ひとりで部屋に戻れます。
大丈夫ですから。」
あたしは高彬と真正面を向いて話しかけた。
けれど、高彬はその言葉を聞いても動こうとしない。
あたしをじっと見つめてその前から姿を消してくれないの。
どうして・・・・・・どうしてよ高彬!
「瑠璃さん、そんな姿を僕に見せてそれで僕が君の前から去るとでも思った?
どうしてそんなに傷ついた君を残して僕が去れると思うの。
瑠璃さんは藤壺の女御としての仮面をかぶっていても
僕にとって瑠璃さんは瑠璃さんだよ!」
「高彬!?」
あたしは思わず高彬の胸の中に縋ってしまっていた。
ああああああ~~~~~~~
高彬~~高彬~~~~~~
どうしてこの言葉をあんたが言うの?
その言葉を言って欲しい人はあたしのことを分ってくれないのに!
どれだけあたしは高彬に縋っていたんだろうか?
長かったかもしれないし短かったかもしれない。
けれど高彬のおかげで少しだけ気持ちが晴れたような気がしていた。
「右近の少将高彬殿、もうあたしは平気です。
馬鹿な姿を見せて申し訳なかったです。ですが本当にもういいのです。
あなたのおかげで楽になりました。」
あたしは高彬の顔をじっと見つめる。
あんたのおかげであたしは少し気持ちが楽になったわ。
でも、あたしは高彬を振った女ですもの。
これ以上あんたに迷惑をかけられないわ。
だから、あたしはあえて高彬と一線をひくの。
そしてそれを察した高彬もあたしに合わせてくれる。
「藤壺の女御様、いくら局がすぐ側でも何が起こるか分かりません。
すぐにお戻りください。私はこのまま警備に当たりたいと思います。」
あたし達はお互いを見ながら微笑みあった。
高彬・・・ありがとうね・・・・
あんたのおかげであたしは頑張ろうと思う気持ちが湧いたわ。
あたしの気持ちは晴れ晴れしい気持ちへとなっていったのよ。
まさかその姿を見られているなんて思わずにね・・・・