妄想の館

なんて素敵にジャパネスク二次小説(鷹男×瑠璃姫)

藤壺女御物語7

寝所であたしは唯恵のことを考えすぎたせいか、中々寝付けないでいた。

階に降りて、少し夜風でも浴びようかな?

その時だった。

「どこへ行くのですか?」

「誰?」

それは冴え氷る君の異名を持つ美僧唯恵だった。

あまりにも美しいかんばしに、あたしはつい見とれてしまった。

なんであたしの寝所に入れるの?

「声を出しても無駄ですよ。皆眠り薬で女御様を守る人間はいません。」

声を上げようにも唯恵がすぐにあたしの首に手をかける。

まさか、あたしを殺すつもりなの?

「あたしを殺す気?」

手に力は入っていないけれど、あの時、あたしに気が付いていたのね。

目撃者を殺すつもりなのだろう。

「私はあなたをどうしたいのでしょうね。

あなたは私と結ばれることはなくなってしまった。

だったらあなたを連れ出して、駆け落ちでもするか?」

唯恵・・・

あれ・・・温かい・・・あたしはどうなってるの。

何故かあたしは、唯恵の体の中にすっぽり入り抱きしめられていたの。

「離して!・・・なにをするのよ!」

「ふふふ、あなたにどうしても会いたかった。

だからなじみの女房に手引きをしていただきました。」

「なっ、どうしてあんたがあたしのことを知っているの?

おかしいじゃない、一度も会ったことがないのに」

「昔、吉野の里で一緒に楽しく遊んだ少女がおりました。

大貴族の姫でありながら、姫にありがちな気位の高さもなく

野育ちの里娘のように暖かで勇ましく、

優しい心根のまっすぐとした目をした姫でした。

私はその姫と毎日遊びました。

私はその姫をいつまでも忘れることはできません。」

「まさか、あんたは吉野の君なの!?」

「私は一生その姫と一緒に暮らすことが夢だったのです。

だから父君が私に会いたがっておられると京からの使いの者が現れた。

あの時から私の歯車が狂い始めてしまったのです。

全ては八年前にさかのぼります。

左大臣の手引きで私は初めて父君と対面を果たしました。

しかし、父君は私を子として認めることはありませんでした。

私は絶望の淵へと追いやられたのです。

忘却は罪です。

私の大事な幼き姫君が帝に入内すると聞き私は許せなかった。

今上帝が憎い!」

「あたしが女御になったから、ただ、それだけで吉野の君は

帝を憎んでいるの?それだけで・・・」

「それだけではないのですよ。今上帝はあらゆる方々から守られ続け

その為に多くの犠牲者がいることに気づかない。

知らぬが仏・・・無知は罪です。」

「吉野の君が大皇の宮様の枕元に呪詛状を突き立てたり

この前の新帝への藁人形を置いたのも吉野の君の仕業だというの?」

「そうです、私の心は怨念で満ち溢れてしまったのです。」

「お願い!もうこんなことするのはやめて!

まだ唯恵が犯人だということは誰も知らない。

呪詛状のことも秘密裏にされている、だからもうこれ以上何もしないで

お願いよ!」

あたしは吉野の君の胸を軽くたたきながら哀願した。

「それでは姫は私のものになってくださるのですか?」

「えっ?」

あたしは頭の中が真っ白になってしまうほど動揺していた。

「吉野の君はあたしの前からいなくなったもの。吉野の君の母君は

吉野の君は死んだといっていた。

だからあんたは吉野の君じゃない!」

「いつかわたしが都に呼ばれ官位を授かることができたら

お迎えに行ってもいいですか?私は愛する人と幸せになりたい。

ひっそりと穏やかに暮らしたいのです。」

「その台詞は!」

「いいのですよ、わたしはある姫に吉野の君と呼ばれていたことがあります。

ふふっ、懐かしい限りです。ですから、私は罪をかぶってでも

自分の幸せの象徴であるあの愛おしい姫君が欲しいのですよ。」

「そんなこと言われてもあたしは・・・

じゃああなたは、吉野の君なのね。」

「はい」

その笑顔は、以前一緒に子供時代遊んだ若君の姿と重なったように

懐かしく思えた。

「そういえば吉野の君の父上ってどなたなの?」

吉野の君からはすぐに笑顔が消え、

怖い表情で何かを思い出したかのように答えた。

「近く大皇の宮が参内なされるとか、宮にお聞きになればいい、

朝霧を覚えておられるかと・・・」

「あっ、吉野の君・・・」

吉野の君こと唯恵は暗闇に紛れ姿を消したのです。

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