藤壺女御物語19
なんなのあの人、むかつくわね~
イライライライラ
あたしは新しい女御様から数々の嫌がらせを受けていた。
嫉妬は仕方がないけれど、あたしをターゲットにするっていうのは
おかしいじゃないの。
あたしが鷹男の帝の寵姫なのが嫌なんだろうけどさ。
こうも毎日毎日嫌味の応酬も相手するのにはめんどくさいのに
ただの嫌味を毎日言いに来るくらい余ほど暇なのかしら。
また今日も来るのだろうな。
いつ来るのか分からないから困るわよ。
「藤壺の女御様!大変です。今から梅壺の女御様がお見えですよ。」
「ちょっと先ぶれがないじゃないの」
「そうなんですけど、あっ、もうすぐお姿が見えますわ。」
「いいわ、小萩。とりあえず、梅壺の女御様が座れるように整えてちょうだい。」
「はい、いますぐ!」
ぱたぱたと飛香舎こと藤壺の殿舎が騒がしくなっていく。
「失礼いたしますわ。藤壺の女御様!あらっ、何の騒ぎなのかしら。
相変わらずここはいつまで経っても騒がしいですわね。
女房も慌てて見えて、藤壺の女御様の質が悪いからだと評判になっても
致し方ないですわね。」
「あら、これはわざわざご忠告ありがとうございますわ。
それにしても梅壺の女御様はここ藤壺に何か用なのですか?」
「相変わらずせっかちな方ですわねえ~
私たちは同じ帝の女御ではありませんか?ですから同じ女御として
仲良くするのは当然ではありませんか?」
「でも梅壺の女御様は飛香舎には毎日来て見えますが
他の女御様たちのもとには伺ってないのでは?」
「藤壺の女御様以外の方々は誰かしらと違って
今上帝にべたべたするお方とは違いますわ。
まして慎ましく美しい女御様たちばかりですので。」
「誰かとはだれなのかしら?べたべた帝の執務中に押し掛ける
図々しい人なら約一名知っていますけどね。」
「まあ!いつ執務中のお主上に会いに行ったっていうのかしら。
昼中でも平気で図々しく会うほうが悪いんじゃありませんか?」
「帝があたしに会いにくるのは誰かが嫌で避難してくるだけではないのかしら?」
「なんていう人なの?変人という噂は本当ですわね。
嫌味だけは上等だこと。私を蔑ろにしてよいと思っていて!」
「別に蔑ろに思っているのではありませんわ。
よくまあ、嫌いな人間のところにわざわざ来るな~と思って。
よほどお暇なのね。」
「お主上に言いつけますわよ!覚えてらっしゃい!」
「瑠璃様大丈夫でございますか?」
「まあ慣れたわよ。ああも毎日同じことの繰り返し、本当に暇なのね。」
「瑠璃様が相手をなさるから」
「だって仕方がないじゃない。あんなこと言われて
あたしが黙っているわけがないでしょう。」
「それはそうでしょうが、梅壺の女御様も入内当時とは違って嫌味な方ですわね。
瑠璃様もよく我慢なさっていますわ。」
「うっとおしいけどとりあえず、嫌味を言ってくるだけだし
あたしへの妨害はあの宴のときだけじゃない?」
「しかし瑠璃様!嫌味だけではなく、
毎日のように桂はいつも切り刻まれていますわよ。
まあ、そんなに高価なものではないのでいいんですけど
これが続いては瑠璃様の着るものだけでなく
女房達の着るものまでなくなってしまいますわ。」
「そうね~梅壺の女御様たちの女房が犯人だということは証拠がないしね。」
「誠に困りましたわ。」
梅壺の女御様が入内して一か月が経っていた。
あたしが入内して他の女御様方からのいじめは全くなかったわけではない。
でも入内当時は鷹男もあたしもお互いのことを何も気にしていなかったし
仲が良くなったのは床下で出会ってからだもの。
その当時も、鷹男がお主上だと知らなかったから寵愛なんて受けるわけないし。
寵愛が深くなったのは吉野の君の件があってからだもの。
でも、梅壺の女御様が入内して変わってしまったの。
あたしが入内してから半年と少ししか経ってないから
新たな女御をすぐ迎えるわけにはいかない。
でも、丞香殿の女御様が病に倒れられ、そうなると鷹男の御代には
親王様がまだ存在しない。
だから新たな女御様を迎えないといけないと大貴族たちの間で話し合われたの。
その結果、源大納言の一姫である姫が入内することになったの。
源大納言は野心が強いらしく、その娘である姫も
中宮になるべき存在として入内したのよね~
大きな声で話しているのを偶々梅壺の近くを通った時に聞こえたから
梅壺の女御様はよほど自信家なのね。
だから態度が偉そうなのよ。
あたしは中宮とか関係なく鷹男の傍にいれば満足なんだけどね。
でも梅壺の女御様はそうじゃないからあたしにすごい突っかかってくるのよ。
入内当時はこんな性格の悪い女御様だなんて知らなかったわ。
何故なら、一番最初にあたしの藤壺に寄って
一緒に宴の女楽をするための練習をしようとあちらから申し出てくれた。
だから、一緒に練習をして宴に出るつもりだったのよ。
でもあんなことになるなんて・・・
梅壺の女御様があんな仕打ちを仕掛けてくるなんて思いもしなかった。
いろいろな物語を読んだりすると、
女御同士の酷いいじめはあることを認識していた。
けれど、まさか自分の身に及ぶとは思いもよらなかったから油断していたの。
女御になり立てのときは丞香殿の女御様や桐壺の女御様たちに
一度ご挨拶に伺った。
その時は、お二人ともお優しい雰囲気だったわよ。
周囲の女房達はあたしを憎むような視線を向けてきたけどね。
あの時は鷹男を知らなかったからあたしはどっちかというと
ご寵愛はお二人で競い合えばいいのにとおもって関係ないと思ってたもの。
楽観視はしていたけど、最近お二人の女御様の女房達の態度が
露骨なように感じられるの。
でもだからと言って露骨ないじめはなくて見た目は平和な後宮生活だったわ。