初恋~叶わぬ思い~9
あたしのお腹の中に子供がいることを知った鷹男は凄く喜んでくれた。
周りから数多くの祝福もいただいたの。
光徳院さまは十年前にはお隠れになったけど大皇の宮さまはまだ御健在。
もちろん今でも元気に過ごされていて時々後宮に遊びに来てくださるわ。
そして藤の宮さまは実はもう何年も前に御結婚されていて
今では幸せに暮らして見えるの。
その相手は昔秋篠権中将さまだったお方。
今では大納言さまになられているけどね。
藤の宮さまは人妻になられたけど相変わらずお美しいようよ。
さまざまなお方からまだ生まれぬやや子のために
贈りものを頂けて嬉しくて仕方がない。
そんなある日不審な贈り物を頂いたの。
そりゃあやや子だけじゃなくて、あたしの為の贈り物を頂くことももちろんある。
美しい織物や反物。面白そうな物語や絵屏風
今回は全く贈り主が分からなかったの。
忙しそうな女房が藤壺に来てこれをあたし達の飛香舎に
届けるように頼まれたからともってきたの。
いくつかの巻物を持ってきて一番上の物語はあたしに目を通して欲しいと
一言声をかけていったみたい。
もちろんあたしが目を通したら他のものにも見せてもいい物らしく
始めは不思議だった。
なんで急に巻物を贈られるのか?贈り主も分からない不審な巻物。
あまりにも妖しげな贈り物に小萩が難色を示していたんだけど
一番上以外は他の者が見てもいいといわれていたらしく
まだ若い女房達は小萩が注意をする前に見始めてしまったのよ。
「これ!お前達、この巻物が何かも分からないのに勝手に広げて
藤壺の女御さまの御前だというのにはしたない!」
「まあいいじゃないの何の巻物かわからないんだし
他の者が見てくれた方が一人で見るよりは安心するじゃない」
「しかし瑠璃さま~」
小萩が苦虫を食らったみたいな変な表情をしているとき
周りの女房達はというと中の巻物をみて
すぐにきゃあきゃあいいはじめたのよ。
「藤壺の女御さま~これをご覧ください。私この物語大好きなんです」
「私も凄く好きでこんな殿方に愛されたいです。」
「そういえばこれですわ藤壺の女御さまが目を通すようにいわれていた巻物は」
そういわれてあたしは巻き物を手にとったの。
それはただの普通の物語。あたしも昔に少し目を通した事があるおはなし。
でもこんな浮気ものは大嫌いだったから
途中で見ずに小萩たちに上げたことがあった。
あまりにも有名な源氏物語だったの!
見ていないとはいえ話の要所要所は小萩が教えてくれていた。
だから少し目を通しただけで分かった。
何故これをあたしに贈ったのか?
贈り主は誰なのかいろいろな想いがめまぐるしく駆巡ったの。
「瑠璃さまどうかされましたか?
まさかその巻物に何か不審なことが書かれていたのですか?」
「ううん違うわ。」
あたしはとりあえずその巻物に物語以外何かかかれていないか
仕掛けでもないか念入りに調べたの。
でも何もみつからなかった。
女房達がこの巻物も見たいといったからあげる事にしたの。
声もでないくらい嫌な気持ちだった。
だってあたしに目を通して欲しいといった巻物は
不義の御子さまが誕生するシ-ンだったから・・・・・・
絶対に誓っていうわ。お腹の中のややは鷹男との御子さまよ!
どうしてこんな物語をあたしに見せるの?一体どういう意図があるの?
意味が分からない。
不義の恋とはいえお互い愛しあっていたんだから。
まさかあたしと東宮様がそういう関係だと疑われているの?
そんなわけがないじゃない!東宮様はあたしを怨んでいるんだから・・・・
ただのいたずらだろうか?
あたしは確かに源氏物語の舞台でもある
でも全く違うというのにこんないたずらあまりにも酷すぎる。
あたしはとにかくこの物語の贈り主を尽きとめようと躍起になっていたのよ。